2017年 歯科医師国家試験問題から(微生物・免疫学分野)
2017年 平成29年に実施された、第110回歯科医師国家試験から、微生物学と免疫学の問題を抜粋し、コメントします。
<感想>
- 初めてざっと見た時は、特に目新しい問題もなく退屈に思えたが、基本事項の理解が重要な問題が増えているという傾向を感じる。
- 過去問を研究して、基礎知識・周辺知識を整理することが重要。
- 暗記に頼るのではなく、「そもそもこれってどういうこと?」を意識できているかを試されるような問題が増えている気がする。
A問題
110A1 細菌の細胞壁分解能を有するのはどれか。1つ選べ。
a アミラーゼ
b リゾチーム
c デイフェンシン
d ラクトフェリン
e ペルオキシダーゼ
細菌の細胞壁の主な成分は何か、そもそも答えられますか?
ペプチドグリカンです。
ペグチドグリカンの、N-アセチルグルコサミンNAG とN-アセチルムラミン酸NAMの間の結合を切断する酵素がリゾチームです。粘液、唾液、涙、母乳などに分泌されます。卵白にも多く含まれています。
110A5 節足動物が媒介する感染症の病原体はどれか。1つ選べ。
a ノロウイルス
b 狂犬病ウイルス
c デングウイルス
d B型肝炎ウイルス
e インフルエンザウイルス
節足動物には蚊などの昆虫やダニ・クモが含まれますが、蚊が媒介する感染症として近年話題になったのが、デング熱です。通常輸入感染症として海外で感染した人が国内で発症するとされていましたが、数年前には国内で感染が発生した事が騒ぎになりました。病原体はデングウイルスです。病原体と媒介動物の違いを理解しましょう。
蚊が媒介する感染症としては、他にマラリアが有名です。こちらはマラリア原虫が病原体です。
110A9 好中球の貧食活性を高めるのはどれか。1つ選べ。
a IgA
b IgD
c IgE
d IgG
e IgM
食細胞による貪食を促進する効果をオプソニン効果といいます。ギリシャ語でオプソンopsonとは、主食の他のおかずを指すそうです。ふりかけをイメージしたほうがいいかもしれませんが、病原体にオプソニン効果のある成分がかかっていると、食細胞にとって、とっても美味しそうに見えるわけです。補体や、免疫グロブリンではIgGにこの作用があります。実際のところは貪食細胞は、補体レセプターやFcレセプターによって、病原体に張り付いたこれらの成分を認識し、貪食します。
110A10 Avoiding the frequent intake of fermentable carbohydrates,especially sucrose,in diets is important for the ( ) of early childhood caries.
( )に入るのはどれか。1つ選べ。
a treatment
b prevention
c restoration
d development
e decalcification
歯科国試では、英文の問題が必ずひとつ出題されています。基本的ですが、正解率はそんなに高くなく、必修問題であれば合否を左右すると言えます。日頃から、少し英語を意識しているといいでしょう。
110A14 ABO式血液型検査に用いられる反応はどれか。1つ選べ。
a 凝集反応
b 中和反応
c 沈降反応
d 溶解反応
e 補体結合反応
例えば、A型の赤血球にはA抗原が存在し、B抗原は存在しません。そこに抗A抗体をかけると肉眼で分かる凝集が起こります。抗B抗体では起こりません。これにより血液型を判定します。
110A15 全身性の発疹を引き起こす病原体はどれか。1つ選べ。
a EBウイルス
b 麻疹ウイルス
c ロタウイルス
d ムンプスウイルス
(問題としては適切だが、必修問題としては妥当ではないため除外、とされた問題)
多くのウイルスは、感染する相手の細胞が決まっています。これを臓器親和性などと言います。一部のウイルスは、全身に感染することが知られています。麻疹ウイルスが代表です。
来年あたりは、どこに感染するか?という問題がでるかも??
110A17 スタンダードプレコーションで感染性物質として扱わないのはどれか。1つ選ベ。
a 汗
b 涙
c 喀痰
d 唾液
e 鼻汁
汗以外の全ての体液を対象とします。
110A25 放線菌感染で菌塊周囲に多くみられるのはどれか。1つ選べ。
a 好酸球
b 好中球
c 好塩基球
d 肥満細胞
e リンパ球
110A32 ミュータンスレンサ球菌の合成する不溶性グルカンの構成単位はどれか。1つ選べ。
a グルコース
b スクロース
c ガラクトース
d グルコサミン
e フルクトース
グルカンというのは、グルコースの重合体です。繋がり方によって、様々な種類があります。来年はつながり方の問題がでるかも?
110A63 減数分裂がみられる分化過程はどれか。1つ選べ。
a 赤芽球から赤血球
b 精母細胞から精娘細胞
c 前骨芽細胞から骨芽細胞
d 歯乳頭細胞から象牙芽細胞
e 内エナメル上皮細胞からエナメル芽細胞
減数分裂は生殖細胞をつくる過程で起こります。ヒトの場合、染色体数が23対46本から、23本に減ります。こうしてできた精子や卵子といった配偶子が受精して、元の数に戻るわけです。他の選択肢は全て体細胞分裂で、減数は起こりません。
110A71 アシクロビルが奏効するのはどれか。1つ選べ。
a 麻疹
b C型肝炎
c 感染性胃腸炎
d 口唇ヘルペス
e 成人T細胞白血病
これは基本的な知識です。そろそろもう少し突っ込んだことを聞かれるかもしれません。なぜ、アシクロビルはウイルス感染細胞のDNA複製を選択的に阻害するのか?とか。これはチロシンキナーゼがポイントです。
110A73 先天性梅毒患者の臼歯部に生じるのはどれか。1つ選べ。
a 歯内歯
b Turner歯
c Fournier歯
d タウロドント
e Hutchinson歯
へー
79 ウイルスが原因の悪性腫瘍はどれか。2つ選べ。
a 乳頭腫
b 悪性黒色腫
c Burkittリンパ腫
d 慢性骨髄性白血病
e 成人T細胞白血病
これは知っておきましょう。
110A99 核酸合成過程の代謝措抗によって抗腫蕩作用を示すのはどれか。2つ選べ。
a 5-FU
b ゲフィチニブ
c セツキシマブ
d メトトレキサート
e ドセタキセル水和物
核酸ぽい名前です。5フルオロウラシルということで、ウラシルの5位の炭素Cに、フッ素Fがついているのかな、と想像されます。こういう核酸の類似体が混じっていると、核酸の合成がうまくできないと考えます。
マブmAbは普通、抗体monoclonal antibody を表します。マブで終わるのは、抗体薬品だと想像ができます。
110A108 父娘関係の鑑定に用いられるのはどれか。1つ選べ。
a X染色体DNA
b Y染色体DNA
e ミトコンドリアDNA
XYとXX。ミトコンドリアは母系に遺伝する(卵子のミトコンドリアが受精卵に受け継がれる。精子にミトコンドリアがないわけではないが、受精卵には受け継がれないそうだ。その仕組については、面白そうだけど知りません)。
他の選択肢は、生物の系統を解析するのに使われたりするが、同種内では大きく違わないので、親子関係の判定には向かない。
110A120 血中βーグルカン値が診断に用いられるのはどれか。1つ選べ。
a B型肝炎
b 帯状疱疹
c 深在性真菌症
e 化膿レンサ球菌感染症
これぞ、過去問の研究が問われている問題。
C問題
110C2 単一遺伝子病に関連するのはどれか。1つ選べ。
a 染色体数の異常
b メンデル遺伝形式
c 常染色体の構造異常
d 性染色体の構造異常
e 胎生期ウイルス感染
(問題としては適切だが、必修問題としては妥当ではないため、除外された問題)
染色体の数や構造の以上は、多くの遺伝子が影響を受けると考える。単一遺伝子の遺伝は、メンデルの法則に従う。ウイルス感染は遺伝子病ではない。
110C10 Actinomyces viscosusの特徴はどれか。1つ選べ。
a 芽胞形成能
b 線毛の存在
c 偏性嫌気性
d 黒色色素産生性
e リポ多糖の存在
(問題としては適切だが、必修問題としては妥当ではないため、除外)
まず、Actinomyces属はグラム陽性の桿菌です。
おさえておかなければいけない基本事項は、、
芽胞形成するのは、Baccilus属と Clostridium属。
黒色色素産生は、Porphyromonas属や Prevotella属の歯周病原菌が代表的。
リポ多糖(LPS)は、グラム陰性菌が持つもの。
残るはbとcですが、多くのActinomces属は通性嫌気性なので、正解は、bなのかな?たぶん、、
110C16 B型肝炎ウイルスの感染予防に有効な消毒薬はどれか。1つ選べ。
a ポビドンヨード
b 消毒用エタノール
c 塩化ベンザルコニウム
e グルコン酸クロルヘキシジン
B型肝炎ウイルスって、病原体の中でも消毒に対する抵抗性が強い部類のようです。この中でB型肝炎に有効とされるのは、、、?
110C20 F. Crickとともに図に示すモデルを提唱したのはどれか。1つ選べ。
a P. Curie
b K. Mullis
c J. Watson
d F. Sanger
e W. Gilbert
これは一般常識的な有名人です。DNAの二重らせん中の相補的な塩基対のことを、「ワトソン-クリック塩基対」と言ったりもします。
110C24 院内感染対策で正しいのはどれか。1つ選べ。
a 外国感染は対象としない。
b 病院スタッフは対象外である。
c 消毒・滅菌は対策の一つである。
d 抗菌薬の使用方法とは無関係である。
e 一般社会環境と同様の対策をとることが望ましい。
院内で感染を拡大させないために必要なことは??と考えれば正解できそうです。病院スタッフも対象となります。
eについては、院内には高齢者などの易感染性宿主も居ますので、一般環境と同じという訳にはいかないと考えます。
d 抗菌薬の乱用により、耐性菌が増加・感染拡大する危険があるので、無関係ではありません。
110C57 手足口病の病原体はどれか。1つ選べ。
a アデノウイルス
b エンテロウイルス
c 単純疱疹ウイルス
d ムンプスウイルス
e 水痘・帯状疱疹ウイルス
これは基本的な知識です。
110C61 正常組織像(別冊No.11)を別に示す。Sjögren症候群と関連するのはどれか。1つ選べ。
a ア
b イ
c ウ
d エ
e オ
唾液腺ってことでしょうか?
110C72 自己抗体が関与するのはどれか。1つ選べ。
a 2型糖尿病
b 重症筋無力症
c 接触性皮膚炎
d DiGeorge症候群
e 重症複合免疫不全症
(アレルギー性)接触性皮膚炎は、Ⅳ型アレルギーに分類され、T細胞が炎症誘導に役割を果たす、特定の抗原に対する炎症である。自己抗体は関係ない。
重症筋無力症は、末梢神経と筋肉のつなぎ目の筋肉側の受容体などが自己抗体により破壊されることで、筋肉を動かす信号が伝わらないことが原因と考えられています。
DiGeorge症候群は、染色体欠失により胸腺形正が不十分となり、正常なT細胞のプールができない状態です。
重症複合免疫不全症にはいろいろなパターンがありますが、遺伝子の変異などにより免疫機能に重大な欠陥が生じた状態です。自己抗体は関係ありません。
110C82 抗菌薬感受性を測定する方法はどれか。2つ選べ。
a ディスク法
b Ouchterlony法
c 微量液体希釈法
e Polymerase Chain Reaction (PCR)法
ディスク法は、抗菌薬の染み込んだろ紙を平板培地におくことで、対象となる微生物の抗菌薬に対する感受性を判定します。
Ouchterlony法は、抗原と抗体を寒天にあけた別々の孔から拡散させ、沈降線により結合の仕方を判定します。
(微量)液体希釈法は、分かりにくいですがここでは、培養液中で抗菌薬を段階希釈した系列をつくり、どの濃度まで微生物が増殖できるかを判定することで、最小発育阻止濃度MICを測定できる方法を指すと考えられます。
ELISAは抗原抗体反応を利用した、特定のタンパク質の存在の判定などに用いる方法です。
PCRは、言わずと知れた、DNAの増幅法です。
このような、生命科学の実験手法に関する出題も時々あります。基本的な原理を知っておきましょう。他に、ウエスタンブロット、サザンブロット、SDS-PAGE、アガロースゲル電気泳動などが基本的でしょうか。
110C99 遺伝子再構成で多様性を獲得するのはどれか。2つ選べ。
a B細胞
b T細胞
c NK細胞
d 樹状細胞
e 肥満細胞
普通、生殖細胞を除く体細胞は全て受精卵と同じゲノム配列を持っていますが、B細胞とT細胞だけは、それぞれの抗原を認識するB細胞受容体(免疫グロブリン)とT細胞受容体(TCR)の遺伝子のV(D)J組み換えが起こることで、無数の抗原に対応できるようになります。免疫グロブリン遺伝子の組み換えがおこること示してノーベル賞を受賞したのが利根川進博士です。近いうちに、人名問題ででるかも??
110C102 白血球の細胞膜の構造を傷害する毒素を産生するのはどれか。1つ選べ。
a Tannerella forsythia
b Treponema denticola
c Fusobacterium nucleatum
d Porphyromonas gingivalis
e Aggregatibacter actinomycetemcomitans
これは知識問題です。eが、ロイコトリエンという毒素を産生します。
(leukocyte = 白血球)
110C113 原虫感染症はどれか。1つ選べ。
a オウム病
b 日本紅斑熱
c ハンセン病
d アスペルギルス症
e トキソプラズマ症
原虫とはなにか?原虫による感染症にはどのようなものがあるか?
毎年聞かれるわけではありませんが、病原体の分類の基本です。
以上、微生物・免疫学に関する問題の解説でした。
やはり、あまり重箱の隅のような問題は少なく、基本を理解しているか、が問われていると思います。こういう問題を確実に正解していくことが、合格につながります。
↓2018年 第111回歯科医師国家試験の予想問題はこちら。あたる確率は低めです。
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