2016年 医師国家試験から基本的な問題のみ
2016年の医師国家試験(110回)から、生物・微生物・免疫に関する基本的な問題を抜き出します。他の国家試験受験生にも役立ちそうな問題と、少し考えれば分かるかも知れない問題を取り上げます。医師レベルの難しい問題は省いています。
<感想>
- 基本的な問題もそこそこある。
- やや突っ込んだ知識が必要な問題、何段階かよく考える必要がある良問も多い(過去問でよく出題されている問題無のかもしれないが、、)
<A問題>
4 抗癌化学療法により再活性化をきたす肝炎ウイルスはどれか。
A型 B型 C型 D型 E型
(医師国試以外では出なさそうですが、こんな問題もありました。持続感染し、抗癌剤治療や免疫低下時に注意が必要らしいです。C型では起こらないんですかね?)
*日本肝臓学会編『B型肝炎治療ガイドライン』に、以下の様な記述があります。
血液悪性疾患に対する強力な化学療法中あるいは終了後に、HBs抗原陽性あるいはHBs抗原陰性例の一部にHBV再活性化によりB型肝炎が発症し、その中には劇症化する症例があり、注意が必要である。
17 我が国における食物依存性運動誘発アナフィラキシーの原因として頻度が高いのはどれか。2つ選べ。
A 甲殻類 B 牛乳 C 小麦 D 大豆 E 卵
<B問題>
14. 自然免疫に関与するのはどれか。
NK細胞
形質細胞
ヘルパーT細胞
細胞傷害性T細胞
Bリンパ球<B細胞>
(ナチュラルキラー細胞と、細胞傷害性T細胞との違いを整理しよう。それ以外は、明らかに獲得免疫に関わりそうです。T細胞はTCR、B細胞は免疫グロブリンによって、特定の抗原と結合しますね。)
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110B25 あるウイルス性疾患の我が国における月別発生数の傾向を示す。
この疾患はどれか。
a 水痘
b B型肝炎
c デング熱
d インフルエンザ
(これ、おもしろい問題ですね。一般常識で答えられそうですが、実際の試験で出題されると、グラフから情報を読み取って考えるところが、緊張感を生みそうです。)
詳しい解説は、 kogumakita.hatenablog.jp
<C問題>
11.院内感染対策チーム<ICT>で正しいのはどれか。
a 薬剤師はチームに入らない。
b 専従医師の配置が必須である。
c 感染患者の治療に強制介入する。
(各国家試験で、ICTに関する問題がよく出ています。またいずれまとめようと思います。)
<a 薬剤師は入ります。b 「加算1」の場合でも、医師か看護師のうち1名の専従が要件。c 強制介入はしない。 e 常設されている
よって、答え:d>
詳しくは、
<D問題>
3. 成人の病態と関連性が強いウイルスとの組合せで正しいのはどれか。
a 肺炎 --アデノウイルス
b 上気道炎 --ライノウイルス
c 喘息の増悪 --サイトメガロウイルス
d 気管支拡張症の増悪 --RSウイルス
e 慢性閉塞性肺疾患の増悪 --パラインフルエンザウイルス
(どれかな?)
<E問題>
8 微小粒子状物質のうちPM 2.5について正しいのはどれか。
a 肺胞まで到達する。
b 炎症を起こさない。
c 2.5 ng以下の物質をいう。
d たばこの煙には含まれない。
e 大気中濃度の季節変動は小さい。
(テレビでもやってそうな、ほぼ一般常識問題)
20 Ⅲ型アレルギーによる疾患はどれか。
a 蕁麻疹
b 水疱性類天疱瘡
c アトピー性皮膚炎
d アレルギー性接触皮膚炎
e Schonlein-Henoch 紫斑病
(アレルギーの分類)
31 感染症法に基づく入院勧告の対象はどれか。
a 麻疹
b コレラ
c ポリオ
d デング熱
e 日本脳炎
(一類、二類が入院勧告の対象というところから考えると、、)
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110E35 外毒素がショックの原因となるのはどれか。2つ選べ。
a 腸球菌
b 緑色連鎖球菌
c 表皮ブドウ球菌
d 黄色ブドウ球菌
e A群β 溶血性連鎖球菌
(キーワードが思い浮かべば、、。以下『標準微生物学』から引用します。)
-
毒素性ショック症候群 toxic shock syndrome(TSS)の原因毒素、毒素性ショック症候群毒素(TSST-1)はスーパー抗原活性があり、T細胞を持続的に活性化し、大量のIL-1、IL-2およびTNFの産生を刺激することにより毒素性ショックを引き起こす。
-
”人喰いバクテリア”と言われる菌が起こす、レンサ球菌性毒素性ショック症候群Streptococcal toxic shock syndrome (STSS)。本菌が産生する発赤毒素がスーパー抗原としてTリンパ球に作用し、その結果大量のサイトカインが産生されることが一因と考えられている。高熱と筋肉痛、四肢の腫脹に引き続いて、壊死性筋膜炎や敗血症性ショックを起こし、急激に病態が悪化して致命率30~40%に達する。
よって、答えde。
37 ヒト免疫グロブリンとその特徴の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
a IgA 胎盤通過性を有する。
b IgD 5量体を形成する。
c IgE Ⅲ型アレルギーに関与する。
d IgG 4つのサブクラスがある。
e IgM 感染早期に産生される。
(基本問題です。消去法で消せれば楽ですね。)
110E55 50歳の男性。献血を希望して献血センターを訪れた。アフリカの森林で3か月間、鳥類の生態の研究を行ってきたが、その間に体調を崩すことはなかった。帰国後も健康上の問題はなく、帰国して5か月たってから献血センターを訪れた。アフリカ以外の国に滞在経験はない。担当医は感染症の可能性があるために献血はできないと説明した。想定される感染症はどれか。
a デング熱
b マラリア
c Chagas 病
d エボラ出血熱
e 変異型Creutzfeldt-Jakob病
アフリカと、潜伏期間が長いことがポイントなんでしょうか?
潜伏期間を調べると、
- Chagas病は、南米に棲息する吸血昆虫サシガメが媒介する風土病性疾患。病原体は細胞内寄生原虫Trypanosoma cruzi。長い時には数十年の潜伏期間がある。
- 変異型Creutzfeldt-Jakob病(variant CJD; vCJD)は、牛海綿状脳症(BSE)が食肉を介してヒトに伝播した可能性が強く疑われている。孤発型CJD患者は60代、70代に多いのに対して、vCJDは発症年齢が極めて若い(平均28歳)。潜伏期間は性格には分かっていないが、英国でのBSEの爆発的流行とヒトでのvCJDの発症時期から、8~10年と考えられている。
まとめると、Chagas病はアフリカとは関係ない、vCJDは特にアフリカでの感染が想定される感染症ではない。ただし、クロイツフェルト・ヤコブ病患者または疑いがある人は、「献血をご遠慮いただく」対象になる。
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の方、またはそれと疑われる方|献血をご遠慮いただく場合|献血の流れについて|献血する|日本赤十字社
残りの3つの選択肢から、潜伏期間が5か月もあるものはないのですが、よく調べてみると、マラリアは十分な治療をしない場合、慢性化することがあるようです。そして、「献血をご遠慮いただく場合」に含まれています。アフリカの多くの国を含む「特B地域(マラリア感染リスクが「High」とされる地域)」に旅行した場合は1年、長期滞在した場合は3年間献血できないようです。ふむふむ。これで答えはわかりますね。
海外旅行者および海外で生活した方|献血をご遠慮いただく場合|献血の流れについて|献血する|日本赤十字社
答え:b
<G問題>
7 不活化ワクチンはどれか。
a MR ワクチン
b 水痘ワクチン
c BCG ワクチン
d 日本脳炎ワクチン
e ロタウイルスワクチン
(abceは、生ワクチンですね。)
25 血液培養の検体採取方法で適切なのはどれか。
a 動脈採血を第一選択とする。
b 複数部位より採取する。
c 血液量はなるべく少量とする。
d ボトルに分注する前に針を交換する。
e 好気用ボトルに先に分注する。
(常在菌の混入による誤った結論を避けるためには、、、。)
31 適正使用のため感染対策部門が院内の使用を管理すべき抗菌薬はどれか。
a セフェム系
b ペニシリン系
c カルバペネム系
d マクロライド系
e アミノグリコシド系
(どれかな?)
36 造血幹細胞について正しいのはどれか。2つ選べ。
a 多分化能を有する。
b 自己複製能を有する。
c 次第に老化し枯渇する。
d 骨髄微小環境との相互関係はない。
e ほとんどが細胞周期の分裂期にある。
(一般的な、幹細胞の特徴を考えれば易しい問題です。)
<I問題>
2 微生物と生物学的分類の組合せで正しいのはどれか。
a クラミジア --- 細胞内寄生菌
b マイコプラズマ --- 抗酸菌
c トキソプラズマ --- 真菌
d ニューモシスチス --- 原虫
e クリプトコッカス --- 嫌気性菌
(微生物の分類と、そこに含まれる具体的な菌を整理できていれば、答えられます。)
28 ヒトパピローマウイルスが原因となるのはどれか。
a 軟性下疳
b 精巣上体炎
c 亀頭包皮炎
d 非淋菌性尿道炎
e 尖圭コンジローマ
(基本的な知識)
36 病変部皮膚の表皮基底膜部にIgGが沈着する疾患はどれか。2つ選べ。
a 天疱瘡
b 疱疹状皮膚炎
c 水疱性類天疱瘡
d Hailey-Hailey病
e 後天性表皮水疱症
(自己免疫疾患と、その分類)
110I45 58 歳の男性と55歳の女性の夫婦。本日午後11時に、下痢、嘔吐および腹痛を主訴に夫婦とも救急車で搬入された。夫は長期出張から午後8時に帰ったばかりであり、午後9時に夫婦揃って夕食をとった。妻によると献立は鍋物で、具材は冷凍にしておいた牡蠣、スーパーで本日午後に買った豆腐と野菜、春菊、ねぎ、もやしであった。その他に米飯と市販の漬物と昨日妻が採った山菜の天ぷらで夫婦で同じ物を食べたという。午後10時ころより夫婦とも腹痛が出現し、症状が増悪したため救急車を要請した。原因と考えられるのはどれか。
a アニサキス
b 植物性自然毒
c ノロウィルス
d カンピロバクター
e 腸管出血性大腸菌
・夫婦揃って発症ということは、一緒にとった食事が原因なのでしょう。そして、食事から救急搬送までは2時間と短時間です。また、鍋なので加熱はしていたと考えてよいでしょう。
以下、『公衆衛生マニュアル2016』でそれぞれの病原体について調べると、
- ノロウイルス:1~2日。感染源は、魚介類・生ガキ。
- カンピロバクター:2~5日。加熱が有効。
- 腸管出血性大腸菌:10時間~6日。加熱が有効。
- アニサキス:数時間。ただし、感染源は、生または加熱不十分な魚。加熱または冷凍で死滅することから、この問題の状況には当てはまらない。
キノコ類による植物性自然毒には、「胃腸炎型」「コレラ型」「神経型」があるそうですが、このうち「胃腸炎型」は、潜伏期が30分~2時間、症状は「悪心・嘔吐、腹痛、下痢」ということで、問題の状況に当てはまりますね。